脱サラや起業、農業への転職を考えている方々にとって、田舎への移住は魅力的な選択肢でしょう。もしかしたら、既に賃貸や古民家の購入を検討している方もいるでしょう。
しかし、ただ住みたい場所を選ぶだけではなく、将来を考えた住まいの選択も大切です。
ここでは、理学療法士の視点から、10年後や15年後も安心して生活できる家を見つけるためのポイントをご紹介します。
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いつまでも健康にはいられない! 未来を見越した家を選ぶ重要性
家を買った当初は若いかもしれませんが、歳をとることは避けられません。厚生労働省の2016年のデータによれば、平均寿命は男性が81歳、女性が87歳です。
ただし、『健康寿命』は男性が72歳、女性が75歳となっています。健康寿命とは、健康に問題がなく普通に日常生活ができる期間のことを指します。これに基づくと、会社員の定年が65歳なら、約6~10年後には何らかの制限が日常生活に発生します。
つまり、男性は72歳、女性は75歳の時点で、寿命までの8~13年間は、健康な状態で過ごせるとは限らないことを理解しておくことが大切です。田舎暮らしを考える上で、将来の健康状態も考慮に入れ、賢明な家を選ぶ事が重要です。
参考文献:厚生労働省(2021).「健康寿命の令和元年値について」.厚生労働省. https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000872952.pdf.
在宅生活が難しくなる病気や状況とは?
ここでは、健康寿命に影響する病気や状況に焦点を当ててみましょう。例えば、健康寿命(男性71歳、女性87歳)の時点で、介護が必要な状態になると仮定してみましょう。
厚生労働省の2019年 国民生活基礎調査の概要によると、介護が必要となる主な原因としては、第1位が認知症、第2位が脳血管疾患(脳卒中)、第3位が高齢による衰弱が挙げられています。また、上位三位には含まれていませんが、関節疾患や骨折・転倒も在宅生活を妨げる恐れがあります。
つまり、認知症、脳血管疾患、関節疾患、骨折・転倒によって介護が必要となり、結果として、在宅生活が危うくなります。
参考文献:厚生労働省(2019).「2019年 国民生活基礎調査の概要 Ⅳ介護の状況」.厚生労働省. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/05.pdf.
高齢になっても住みやすい家の条件
高齢になっても快適に住むためには、介護が必要になっても安心して生活できることが大切です。
言い換えれば、「脳血管疾患、関節疾患、骨折・転倒などがあっても安全に暮らせること」を考えることが重要です。
これらの観点から、高齢になっても住みやすい住居の条件を考えていきましょう。
借家より持家
借家も理想的な選択肢ではありますが、持ち家の方が好ましいです。
それは、足の力が弱くなったり、バランスが悪くなったりして、壁や柱を持たなければ歩くのが難しくなってきた時です。このような段階になると、持つ場所が全くない場所での歩行は不安定となっている可能性があります。
この場合は手すりがあれば、恐らく安全に歩くことができるでしょう。
持ち家であれば自分の必要な場所に手すりを取り付ける(打ちつける)事ができますが、借家の場合は、家を改修する事になるので、大家の許可がなければ手すりを付けることができない事があります。もちろん、大家が許可すれば問題なく、取り付けることができます。
このような理由で借家より持ち家の方がよいと思います。
近年は介護保険制度を利用すれば、手すりを取り付けずに手すりを設置できる『床置き式の手すり』がレンタルできます。
これにより、借家でも手すりを取り付けなくても良いようになってきています。
二階建ての家よりも平屋
家は、平屋の方が良いと考えています。
二階建ての家も平屋と比べて面積当たりの部屋数が多くなり、魅力的かもしれません。しかし、変形性膝関節症でひざの痛みが出てくると、階段昇降が難しくなってきます。這いながら昇り降りしたり、段に座って昇り降りしたりすることが増え、二階へのアクセスが難しくなってきます。すると、二階を利用する頻度が低下します。
また、高齢になったり、病気になると、階段昇降が大変になってくることがあり、生活の中心が一階に移ることが増えます。
高齢の方に話を伺うと、たいてい『二階は物置に使っている』と言われることが多いです。
そのため、二階建ての家も魅力的な選択肢ではありますが、年齢と共に二階の使用頻度は低下するので、平屋の方がよいと思います。
親族の近くに家がある
若い頃は将来の入院を考えることは少ないかもしれません。しかし、年を重ねると入院する可能性も出てきます。そして、突然の入院が必要な状況になった場合、親族が近くにいないと、必要な物品(靴、着替え、お金など)を持ってきてくれる人がおらず、困ってしまう事があります。また、重病で在宅復帰を考える際にも、親族が近くにいると心強いでしょう。
そのため、親族の近くに住むことは理想的だと思います(もちろん、仲が良いことが前提ですが…)。
家までの車道があること
家まで車でアクセスできることが重要です。
都会では気づきにくいかもしれませんが、田舎では家までの道が長く、狭いことがあります。田んぼのあぜ道ほどの細い小道や、車が通れない急な斜面を通って家に到達することもあります。こうした状況では、歩行が難しくなった場合、どうやって移動するかが問題となります。車いすを利用する方法もありますが、狭すぎて車いすが通れないことも考えられます。
少なくとも車いすを使って家まで移動できる道があるか確認することが重要です。理想的な状態としては、家の入口(玄関など)まで車がアクセスできることです。
また、道が狭いと救急車や消防車も家までアクセスできない可能性があるため、緊急時に困ることがあります。
凹凸の少ない庭があること
庭つきの家を検討している方もいるでしょう。その際には、家の玄関までなるべく凹凸の少ない道が庭に整備されていると安全です。
美しい庭は見ていて気持ちがいいですが、庭全体に砂利が敷かれていたり、飛び石が配置されている場合は要注意です。年齢とともに筋力が低下し、バランスも悪くなるため、砂利などの不均整な地面ではバランスを崩して転倒する危険性があります。また、庭の飛び石に引っかかることも考えられます。
不揃いなタイルを道として敷き詰められている場合も気を付ける必要があります。タイルとタイルの微妙な段差で足が引っかかり、転倒する可能性があります。
車椅子生活が必要になった場合、庭に砂利が敷かれていると、車椅子の車輪が砂利に沈んで進めなくなることがあります(特にキャスター(前輪))。
理想的なのは、平坦で凹凸がない道が玄関まで続いていることです。引っかかりや転倒のリスクを最小限に抑えることができるでしょう。
和式トイレより洋式トイレ
田舎の家、古民家、または農家では、トイレが和式の場合があります。
和式トイレを使う際には、膝や股関節を深く曲げる必要があります。年をとると、股関節や膝関節に変形(変形性関節症)が生じることがあり、それが和式トイレの使用を難しくすることがあります。具体的には、股関節や膝関節の動きが制限され、和式トイレの利用が難しくなることです。
洋式トイレは、股関節や膝関節を深く曲げる必要がないため、将来的には洋式トイレの導入が必要になることがあります。ただし、和式トイレを洋式トイレに変える際には、介護保険制度が提供する補助金を受けることができます。そのため、対応策は存在します。
寝室とトイレまでの距離が短いこと
歩行が難しくなった際、寝室とトイレの距離は、できるだけ近いほうが便利です。特に夜中にトイレに行くときは、寝ぼけていることも考えられるため、移動距離を最小限にすることで転倒の危険性が低減します。
また、脳卒中後の片麻痺や歩行速度が遅い場合、あるいは装具を使用して歩く必要がある場合、距離が遠いとトイレに間に合わない可能性があります。
寝室の位置を変えたり、ポータブルトイレを利用するなど、対策はさまざまですが、できるだけ移動距離を短くすることが重要です。
トイレ・風呂の配置
田舎の農家の家では、時折トイレや風呂が屋外に設置されていることがあります。
汚れた長靴のままトイレに入れるなど、屋外での農作業を想定して作られているからです。しかし、家でくつろいでいる最中にも屋外のトイレに行かなければならないというデメリットもあります。夜間に屋外のトイレを使用する際は、寝起きで寝ぼけていたり、足元が暗い場合には転倒の危険性が考えられます。
これらの理由から、家の中にトイレがあるかどうかを確認することが重要です。また、時折風呂も屋外にある場合があるので、それも含めて確認しておくと良いでしょう。
自家用車の重要性
家の話から逸れてしまいますが、とても重要な点なので、記載しておきます。
快適な田舎生活を送る上で、自家用車(あるいは自動二輪車)は必須と言ってよいでしょう。その理由は以下の通りです。
・近隣の家までの距離が遠い事が多く、徒歩では時間がかかる。いざというときに近隣の住民に助けを求めることが難しくなる。
・近くにスーパーがないので、遠方に出向かなければならない場合がある。最近は移動スーパーがあるため、問題ない場合もあります。
・バスや電車などの公共交通機関の本数が少ない場合が多い。
これらの理由から、自家用車は必須となる事が多いです。
また、自家用車を庭に置ければ玄関までのアクセスが短くなるので、足腰が弱ってきた際に短距離で玄関まで歩けます。理想は、玄関の前に自動車を置ける庭がある事です。
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